最高の敵 冷戦最後のふたりのスパイ
米ソ冷戦下、CIAとKGBのスパイに生まれた“大胆不敵”な友情——激動の時代を駆け抜けた型破りな男たちの40年におよぶ軌跡。圧巻ノンフィクション
訳者:熊谷千寿
1979年、ワシントンDC。冷戦末期の緊迫した状況下で、彼らは出会った。
一人はCIAの異端児ジャック・プラット。
もう一人は、シベリア育ちのKGB職員ゲンナジー・ワシレンコ。
敵を「徴募(ルビ:リクルート)」する目的で接近した二人は
計算外の友情を深めていくが、
その固い絆は、やがて世界を揺るがす
二重スパイ摘発という事件の引き金となった——。
権謀術数うごめく諜報活動の世界、半世紀に及ぶ米ソ防諜の内実、
名優ロバート・デ・ニーロを巻き込んだロシア当局との攻防。
規格外の男たちに迫った真実の物語。
ハリウッド映画の影響でアメリカ人がKGB職員にどんな思いを抱いているにせよ、ゲンナジーはそのどのイメージにも当てはまらなかった。西側の人間は、ロシア人スパイはシベリア並みに冷たくて、個々の人間性がまったくないと思いがちだ──イアン・フレミングのスパイ小説に出てくる暗殺者を思い浮かべたりする。『007ロシアより愛をこめて』に登場する、彫刻かと思うほどの目鼻立ち、ブロンドの髪、ロボットのような殺し屋グラントとか、脈拍もほとんど上げずに太ももで男たちを絞め殺す『007ゴールデンアイ』のゼニア・オナトップ。あるいは、ウラジーミル・プーチンとか。こうしたステレオタイプは何十年もアメリカ人の意識に刻まれてきた。どこまでも残虐で無慈悲。しかし、ゲンナジーは天真爛漫な魅力に満ちている。(本文より)
【目次】
第1章 見習いスパイ
第2章 すべての道はワシントンに通ず
第3章 コンタクト
第4章 銃士
第5章 IOC
第6章 裏切り者
第7章 そっと、そっと、つかまえろ
第8章 ハバナの騙し討ち
第9章 サーシャ
第10章 旧敵
第11章 旧交ふたたび
第12章 表舞台
第13章 キャビアの重い箱
第14章 嵐の前の静けさ
第15章 あんたはおれを知らない
第16章 甦ったグラーグ
第17章 リセット:赤いボタン
第18章 大詰め
謝辞
原注
登場人物/組織
参考文献